“生國播磨の武士、新免武蔵守藤原玄信、歳つもりて六十。我若年の昔より兵法の道に心をかけ、十三歳にして初めて勝負を爲す…
廿一歳にして都へ上り、天下の兵法者に會ひ數度の勝負を決すといへども、勝利を得ざると云ふ事なし。其後國々所々に至り、諸流の兵法者に行逢ひ六十餘度迄勝負を爲すといへ共、一度も其利を失はず”━━『五輪書』
晩年、宮本武蔵が熊本市近郊の金峰山・霊巌洞で執筆したとされる『五輪書』。そこには、武蔵の生涯や、二天一流と名付けた自らの剣法、その実践法が描かれている。しかし、自筆本とされながら、原本は焼失し、数多くの写本のみが遺されたこの『五輪書』こそ、新たな武蔵像を蘇らせる重要な鍵を握っている。
本作はこの『五輪書』を元に、武蔵の生涯と、その特異なる剣法“二天一流”の謎に迫る歴史アニメドキュメンタリー。精神の修養者、武道の求道者として神仏を尊びながら、自らの運命をゆだねることはなく、勝利するためには幼い者すら躊躇なく手にかけた冷徹な戦略家……
この矛盾したキャラクター・宮本武蔵を、押井守が独自の理論、解釈でいまこそ読み解く!!
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995)『イノセンス』(2004)『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008)と、世界に発信する数々のアニメーション作品を手がけてきた Production I.G が、キャラクターデザインに気鋭の中澤一登を迎え、威風堂々たる剣劇アニメーションを制作。
武蔵の心の動きを時に細やかに、その躍動を大胆に生々しくフィルムに昇華。監督を務める西久保瑞穂は、時代劇にも造詣が深く、『五輪書』に基 づく宮本武蔵の“二天一流”の太刀筋、体捌きをイマジネーション豊かな映像として定着。
ナレーションを除き、アニメーションに付されたキャラクターボイスは、講壇を思わせる一人称による語り。独特の呼吸と節回しで繰り広げられる武蔵とライバル達との剣劇シーンは、さながら音で感じる音楽剣劇。これまでに体験したことのない映像体験を約束。
脚本・原案を務める押井守ならではの衒学的な語りが、本作のもう1つの柱。これまでにない“宮本武蔵像”を作りあげる根幹を担う。『立喰師列伝』(2006)でチーフ演出を務めた本作の監督である西久保瑞穂が、『立喰師列伝』の反省に立ち“もうちょっと見やすく面白くしようという感じで”で取り組んだ押井節は、さながらわかりやすくなった押井節。中世の西洋騎士道から、弓、馬上剣法と、およそ宮本武蔵と結び付きそうにないこれらの要素が、どのように焦点化するのか、ぜひその目で確認してほしい。
宮本武蔵を描いた数多くの映像作品、文芸作品があるなか、本作が描くのは『五輪書』に基づく宮本武蔵像。地、水、火、風、空の5つの巻から成る『五輪書』を再解釈、再構築し、武蔵の心情、内面に迫る。“二天一流”を創出し、60余戦を経て一度として敗れることのなかった武蔵を通し描かれる男が抱いた夢とは……?